綾辻行人の推理小説『十角館の殺人』。
Huluで実写ドラマ化されていたが、それがアマプラで観られるようになっていたから観てみたんだけど……
面白すぎて、気づけば全5話を一気見していた。
観終わったあとに思った。
「これ、小説で読んだら、もっと面白かっただろうな。」
あらすじ(ネタバレなし)
K大ミステリ研究会のメンバー7人が、半年前に殺人事件が起きた孤島『角島』を訪れる。
彼らは、ミステリ作家の名前をあだ名にして呼び合っている。
エラリィ、カー、ポウ、ルルウ、ヴァン、アガサ、オルツィ。
彼らが興味を持った殺人事件の内容はこうだ。
角島では、『中村青司』が、妻や使用人たちと一緒に『青屋敷』に住んでいた。
半年前に、青司・妻・使用人夫婦が殺され、青屋敷は炎上。
当日島を訪れていた庭師の遺体が見つからず、警察は「庭師が犯人で逃走した」と結論づけ、事件は捜査終了となっていた。
島には、中村青司が建てた十角形の館『十角館』が残されており、メンバーたちはそこで、本土と連絡のとれない状態で数日間を過ごすことになる。
やがて、メンバーは一人、また一人と離脱していく。
残された者たちは互いに疑心暗鬼になりながら、次々と起こる殺人に怯えつつ、犯人を探ろうとする。
一方、本土では、ミステリ研究会のメンバー宛に怪文書が送り付けられていた。
差出人は、殺されたはずの「中村青司」で、「お前たちが千織を殺した」という告発の言葉が書かれていた。
千織は青司の娘で、K大のミステリ研究会に所属していた。
ミステリ研究会を既に退会していた『江南孝明』のもとにもこの手紙が届いていた。
江南は、この手紙をきっかけに、千織の唯一の肉親である中村紅次郎の大学時代の後輩である『島田』と、ミステリ研究会員であるにもかかわらず合宿に参加しなかった『守須』とともに、半年前の事件についての調査を進めていく。
※この後の文章にはネタバレが含まれます。
作品の巧妙さに感服
『十角館の殺人』は、読者の“思い込み”を利用した仕掛けが本当に巧妙だ。
ドラマ4話の終盤で、角島を訪れていたミステリ研究会のメンバー6名が死亡したとテレビで報道される。
ここで、ん?となる。
そして、4話のラストの、島田、島田の兄、江南、守須の4名のふとした会話。
島田「彼らは、海外の有名作家の名前をニックネームにして呼び合ってるんだ。」
島田兄「ほう、じゃあお二人にもあだ名が?」
江南「ええ、俺は恥ずかしながらドイルです。コナン・ドイル。」
島田兄「シャーロック・ホームズの作家だ。てことは、守須くんは…モーリス・ルブランあたりかな?」
守須「いえ、僕は……、ヴァン・ダインです。」
ここで、ぞくっとした。
この仕掛けには、本当にびっくりした。
ドラマ化、よくやったなと思う
この作品のポイントは、ヴァンと守須は別人だという、読者の思い込みのままにストーリーが進んでいき、終盤でそれが一気にひっくり返されるところだ。
別に、隠されているわけではない。
ヴァンは守須だし、守須はヴァンだし、ただ単に、
- 角島にいるときは“ヴァン”
- 本土にいるときは“守須”
と表現されていただけだ。
でも、読者は勝手に「別人」だと思い込む。
その“思い込み”を利用したどんでん返しが、この作品の美しさだ。
でも、映像化となると話が変わる。
俳優が演じる以上、“見た目”という情報がどうしても出てしまう。
守須=ヴァンを、そのまま同じ見た目で出したら、視聴者はすぐ気づいてしまう。
だからドラマでは、角島のヴァンと、本土の守須の見た目を変えるという演出が必要になっている。
ただ、ここが原作の“美しさ”を少し削ってしまっている。
守須=ヴァンは、角島でも本土でも同じ見た目で過ごしていて、それを、読者が勝手に別人だと思い込んでいる。
ここがポイントなのに、それが映像だとどうしても表現できない。
小説では、読者自身の思い込みがこの美しさを成立させるのに対して、ドラマでは、この美しさを成立させるために、制作側が“思い込ませるための演出”を仕込まざるを得ない。
その仕込みが、純度を少し下げてしまっているように思った。
そのぶん、「ヴァン・ダインです。」のぞくっと感は、小説のほうが強かっただろうなとは思う。
とはいえ、ドラマ版のあの瞬間は十分ぞくっとした。
見た目を変えて思い込みを成立させた演出の努力がちゃんと効いていて、十分ぞくっとした。
この衝撃を、映像で成立させたのは、本当に見事だと思う。

